ごあいさつ

明治39年5月、寒村の村当別に禅の灯火がともされてはや110年。この間、多くの方々に支えられ艱難辛苦を乗り越えて今日を迎えました。

はるかに当時を偲べば、うっそうとした原野を切り開く開拓の歴史は筆舌に尽くし難く、まさに命がけの偉業と言っても過言ではありません。娯楽もなく、その日の食糧すらままならない厳しい環境の中、郷里の話しをしたり、故人について語ったり、孫や親戚の話しを聞いたり、或いは愚痴を言ったり聞いたりと、寺に集い、寺で語り、寺に癒され、唯一お寺が生きていく上での拠り所として存在していました。

そんな役割を担っていたお寺も、時代の趨勢とともに大きく様変わりし、今や葬儀法事といった死者儀礼を中心とした活動がお寺の中心的役割となっていることは言を待ちません。

しかしこのことがけっして悪いことではありません。むしろこれらの儀礼を真剣に、しかもまごころを込めて執り行い、悲しみに寄り添う慈悲心の実践こそが大切であります。命がこんなにも軽く扱われる時代だからこそ、そういった機会を通じて生死の理とはるか過去より受け継がれてきた命の連続感や家族という命の連帯感、そして今、ここにいるという縁についてしっかりと伝えていくことが今まで以上に求められているはずです。にもかかわらずその関係性にもすでにほころびが見え隠れし始めているのも事実であります。

20年後、いや50年後の将来にお寺はどんな存在になっているのでしょうか。人心の拠り所として必要とされる存在であるために、今何をどう取り組んでいくべきなのかを様々な活動を通じて模索し続けて参りました。そんなある日、ある人生の大先輩から「迷った時は原点に帰れ」とご示唆をいただきました。現在の取組みの方向性はけっして間違ってはいないと確信いたしました。その昔もそうであったようにお寺はいつの時代も地域に開かれた存在でなければならないのです。

現在全久寺ではまず縁をつくり、その縁を育て、そして縁を深めることに力点をおいて種々取り組んでおります。具体的には坐禅会や各種法要はもちろんのこと、青少年の健全育成事業、地域の交流事業、婦人会活動、ボランティア活動、研修旅行や親睦会、さらにコンサートや講演会など人と人とのふれ合いを大切にお寺づくりに取り組んでおります。これからの時代は少子化現象の進展とともに家の信仰から個人の信仰に変わっていく傾向が一層強まるのではないかと予感します。すでにその選択が始まっており、先祖代々のお寺という概念が徐々に瓦解し、私が信仰するお寺、あるいは私が信頼を寄せる住職という選ばれる時代になってくる日もそう遠くはないのではないかと思っております。そういう危機感を感じながら地域のお寺としての機能と可能性をさらに発揮して今後も着実に歩んで参りたいと思っております。

是非一度お足をお運び下さいませ。